『やさしさでできた贈り物。』 エッセイ - 暮らしの拾いもの Vol.7

04.19 2023
ぽかぽかと暖かい春が訪れるたびに、嬉しい反面少しだけ切なくなる。
それはたぶん、家族と離れて一人暮らしを始めた18歳の頃を思い出すからだと思う。
学生だった当時、心配性な母はよくダンボールいっぱいの仕送りを送ってくれた。

中には地元のお米5kgや野菜、ご飯のおともの缶詰、レトルトカレー、小魚のせんべいなどがたっぷり入っていて、配達のお兄さんから受け取るのにいつも一苦労だった。
そんな豊富なラインアップのなかに、なぜか毎回決まって入っていたものがある。
それが、赤飯のパック3個セットだ。
最初の頃は不思議に思いつつも、「安かったから入れてくれたのかな」とあまり気にしなかった。
でも例外なくそれは毎回入っていて、いつしか仕送りの象徴的存在になった。
年に数回、特にお祝いでもない日にひとりで赤飯を食べていたのも、思い返せば何だか面白い。
一度母に、赤飯のパックを入れる理由を聞いてみたことがあるのだけど、その答えは「特に考えてなかったよ」と拍子抜けするくらいあっさりとしたもので、笑ってしまった。
でもわたしは知っている。
赤飯は鉄分とカリウムが豊富で、とても身体にいいことを。
きっと、わたしの体質とズボラな性格をよく理解している母の、気遣いとやさしさだったのだと思う。
母からすれば特別なことではないのかもしれないけれど。
ちなみに今でも、母はたまに仕送りを送ってくれる。
そこにはもう赤飯のパックはないけれど、その代わりに「うちにいっぱい余っているから」と玄米を入れてくれるようになった。

気づけば、この春で上京して9年。
あの頃とはいろんなことが変わったけれど、母の何気ない気遣いはずっと変わらず、今もわたしを支えてくれている。
(おわり)
#暮らしの拾いものvol.6
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