02.28 2023

  • boco to decoシリーズ

    #暮らしの拾いもの

    一見いらないもの、自分に関係のないように思えるものも、少し視点を変えればやさしく光り出す。そんな気付きをひっそりと拾っていく、日常エッセイ。

二拠点生活で小さな港町にいた頃、仲間とよく通っていた焼き鳥屋さんがある。

高齢のご夫婦がふたりで営んでいる、小さなお店だ。

お父さんは、どちらかというとクールな印象。

黙々と串を焼く姿はまさに職人で、注文や提供のときも必要最低限しか話さない。

でも、そんなお父さんにはチャームポイントがある。
 
それは、常連さんにだけ見せる笑顔だ。
 



がらがらと扉が開き、入ってきたのが常連さんだとわかると、「いらっしゃい」のあとに「おお」と言いながらにっこりと笑いかけてくれるのだ。
 
そのふとした笑顔がとてもやさしくて、可愛らしくて、一瞬だけお父さんから「焼き鳥屋の大将」という役割が剥がれるような気がして、それを向けられる常連さんたちを羨ましく思っていた。
 
そんなことを考えながら何度も通ううちに、ついにわたしもお父さんから笑顔をもらえるようになった。

それはすなわち、常連として顔を覚えてもらえたということ。

これまでの人生、自ら“常連”と言えるほどのお店がなかったわたしは、大好きなお店に、ひいてはこの街に受け入れてもらえた気がして、びっくりするくらい嬉しかった。
 



ちなみに今では、街中でばったり出くわしても、お父さんはわざわざ自転車を止めて、「おお」と笑いかけてくれる。
 
頻繁にお店に通えなくても、多くの言葉を交わさずとも、お父さんのにっこりとした笑顔ひとつで、一瞬でそこがわたしの居場所になる。

その安心感は絶大で、何にも代えがたいのだ。

お父さん、元気かな。

近々お土産でも持って、久しぶりにあの笑顔を見に行きたいなと思う。

(おわり)

  • ライター・編集者

    むらやま あき

    1995年長野生まれ。おもにインタビュー記事やエッセイを書いています。1本80円のやきとんとレモンサワーがあれば、結構しあわせ。頑張らなくてもハッピーに生きる方法を模索中。

エッセイの感想や、みなさまのちょっとした暮らしの気づきをお聞かせください(*^^*)

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ていねい花子
今更ですが、自分の幸せのシーンをイラストにして載せていただきとても嬉しいです。保存しました♥️ありがとうございます!

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