『なかったことにしない』 エッセイ - 暮らしの拾いもの Vol.10

08.21 2023
写真を撮られることが苦手だ。
カメラを前にすると、どうしても顔が引きつってしまうし、「今自分はどんな顔をしているんだろう」と考え始めて、無性に心がざわざわする。

いざ撮られた写真を見せてもらうと、つい欠点だと思う部分に目が行ったり、ネガティブな気持ちが刺激されてしまったりして、もとからあまりない自信を失うこともしばしば。
それでもライターの仕事をしていると、書き手として記事に顔が出ることもあるし、写真を撮る人から練習に付き合ってほしいと頼まれて、撮ってもらう機会もある。
正直毎回、カメラマンさんからもらったデータを見るのがとても億劫だ。
もちろんプロの腕前で、とても良く写していただいているけれど、素材である自分自身は突然変身するわけではないので、中にはやっぱり「ああ......変な顔......」と落ち込む写真もある。
そういうときはたいてい、すっと画面を飛ばし、自分の中で見なかったことにしてしまっていた。
でもあるとき、ポートレートを撮ってくれたカメラマンの友人が、データと一緒に「一番のお気に入りはこれ」と送ってくれた写真を見て驚いた。
思いっきり歯を出して笑っていて目がほとんどないし、どアップで顔の丸さも際立つ。
それが恥ずかしくて、すぐに画面を飛ばしてしまった写真だった。
「ええ、本当に!?」と疑いながらも、そのあとじわじわと嬉しさが広がって、不思議な気持ちになった。
それはたぶん、「僕から見たらこういうあなたも素敵だよ」と拾い上げてもらった気がしたからだと思う。
自分から見たら写りが悪くても、他の人の目には魅力的に映ることもあるらしい。
それを知ってからは、少しだけカメラの前に立つのが怖くなくなった気がする。

いつかは“変な顔”の自分も、なかったことにせずに愛せるようになりたいなと思う。
(おわり)
#暮らしの拾いものvol.9
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